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大柄の男は息を飲んだ。一瞬の静止の後、恐怖のあまり立ち尽くす若者を傍のダストコンテナの陰に投げ入れ、自身もそこに飛び込む。ビルの外壁は冷たく、昨日の雨は作業服の尻を濡らしたが、そのような事は全くもって感覚の外だった。耳の奥を衝く速い動悸を押さえ込むように、彼らはできる限り身を縮め、息を殺した。
少し遅れて、くぐもった話し声が聞こえてきた。男はごつい体を露見させないよう、慎重に影から向こうを覗く。見ると、建物の中から全身純白の対菌防護服に身を包んだ人物が二人、各々何やら大きなものが入った黒い袋を担いで現れた。気味の悪いガスマスクを通しての会話は不明瞭で、聞き取ることはできなかったが、時折低い笑い声が混じるあたり、コンテナの陰の部外者に気付いていなければ、生気の無い囚人たちの暗い雰囲気に毒されてもいないようだ。二人の人物は極めて和やかに、身長の半分はあるそれらをマンホールの傍に下ろした。
「あの袋…」
中年男の背後で、金髪は恐ろしさに震える声で呟いた。男は太い腕で乗り出しかけた若者を制し、囁く。
「市の規定には違反した袋だ、お前が持っているのと同じで。あいつら何をしているんだ。ここのブロックの回収所は表の大通りのはずだぞ…おっと」
男は鼻を鳴らし、再度若者の体を押し戻した。視線を戻すと、白装束の人物のうちの一人が、50センチほどの金属の棒を取り出していた。彼――または彼女――は、それをマンホールに衝き立て、ボルトを回す。太いネジを四本全て外すと、その人物は縁にその棒を差込み、梃子の原理で蓋をひっくり返した。
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