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ある日突然訪れた“恋愛”は、私の疲れを吹き飛ばし。
『安心して?俺、もうちゃんと就職先の内定貰ってるから!』
白い歯を見せて満面の笑みを見せた彼は。
「こちらの部署に配属されました、七瀬伊織です!」
それに輪をかけた笑みを私に向け、オフィスの私の向かいのデスクの前に立ち、お辞儀をした。
「よろしくお願いします!岬せんぱい!」
あぁ、どうしてこうなるの!?
たまたまだったとはいえ、まさか私の働く職場、しかも同じ部署に配属とか!!!
ため息を飲みこんで、一度目を伏せるとキッと彼を見上げた。
「私の下についたということは、ビシビシしごくわよ」
「はいっ!喜んで!!」
「居酒屋か、ここは!喜ばんでいい!」
さて、この状況、一体どうしたらいいものか。
給湯室、はぁーとため息ついた私の後ろに現れた存在感。
振り返ったそこには、背中同士をくっつけるようにして立つ彼がいて。
「奈緒、疲れたなら俺に寄り掛かって」
ぼそりと呟く。
「こら、会社で名前呼ばない!」
「今誰もいないから、」
入口から影になる方の手がぎゅっと握られて、私はそれだけでなんだか疲れが吹き飛んでしまうその事実に。
「……ははっ」
訳もなく、笑いが洩れる。
「俺と奈緒って、赤い糸で結ばれてるよね、絶対」
「誰かさん、高校に大学に就職先まで追いかけてくるからね?」
「全部たまたまだから!」
「あれ、ストーカーかと思ってた」
「だから、全部たまたまなの!って言うか、こういうのは運命って言葉使って欲しいんだけど?」
「ふふっ、そうだね」
膨れて唇を尖らせる彼に笑みを向ける。
あの日、彼は相当な勇気を出して私に話しかけてくれたという。
赤い糸が結ばれた先に必ず出会う事が出来るなら、それを待たずに手繰り寄せた彼の行為は運命を超えたのかもしれない。
“そんな人が相手なら”
私は目の前の彼を見上げる。
運命の彼は繋がった手に力を入れ、掠める様におでこにキスを落とした。
~fin~
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