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「せ、先生!」
アロハシャツの先生がホースを四本持って教室に入ってきた。
よく見ればホースは廊下の蛇口に繋がっている。
「先生……」
先生はUVカットのサングラスを小指であげると、悲しそうな顔で言った。
「校長との話し合いは決裂した。――あいつは予算がないからと俺たちの壊れたクーラーを見捨てたんだ」
「!?」
「大掃除? やろうじゃないか。まとめて教室を海に変えてやる! 飯塚、田部!」
そうか。
教室ごと丸洗いしようというのか!
既にオイルを塗った二人がドアをガムテープで固定した。
廊下側の上の窓から垂れ下がった四本のホース。
「先生、誰が蛇口を捻るんですか」
「問題ない。陸上部の棒高跳びのエース、マイケルだ」
「マイケル!!!」
マイケルは蛇口を捻ると、某ルパンのように脱ぎながら上の窓から教室に飛び込んだ。
「お前ら準備はいいか!」
「先生、小林が女物のスクール水着です!」
「人の性癖だ! かまわん!」
「先生、水着と間違えて裸エプロン着てきました!」
「性癖だ!」
「先生、水鉄砲の数が足りません!」
「じゃんけんか性癖だ! 撃たれたいだけのドMは我慢しろ!」
俺は……こんなに生き生きとしたクラスの皆を今まで見たことがなかった。性癖も知らなかった。
上の窓のホースから流れる水は恵みの雨だ。
俺たちを常夏のハワイ、そして海につれていってくれる。
俺は脱いだ。
産まれたままの姿で。
この夏を乗り切ろうと。
俺たちの夏(ナトゥ)は今、始まったばかりだ。
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