第1章

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「俺、地元の人間じゃないんだわ。高2の夏休み明けに転校してきたもんで」 「高2の時、ですか?」 「そう・・」  という事は今は大学生だろうか───真央は年齢を探るように男を見つめた。  身長は自分と変わらない───男としては小柄な方か。インドア派なのか色白で体つきはひょろっと細身だ。  顔は特に目立つパーツも無く、普通によくいそうなタイプで────  小柄でわかりにくいが多分年上だろうと真央は頭の中で結論付けた。 「・・・自転車の鍵あったしもう用事無いよね。じゃ、これで」  男は真央の無遠慮な視線を避けるように近くに止めてあった自転車に跨ると、あっという間に去って行った。真央が声を掛ける間もなかった。  残された真央は手に渡された鍵をじっと見た。   これをしっかり持っていなかったために上村に付き合おうと言われ、その後連絡が取れず悶々とさせられ、バーガーショップの店員には忘れっぽいと指摘されてしまった。 「キーホルダーじゃなくてチェーンにしてバッグに付けるかな」  辺りは既に薄暗くなってきた。  真央は返してもらった鍵を自転車に差し込むと、手荒に開錠した。  告白されてから四日目の潟での練習日に、やっと上村の姿をボート上に見かけた。  とは言っても最初に見つけたのは真央ではなく同じ二年生のボート部員だったが、エイトの真ん中で漕いでいる人、そうじゃない? とこっそり教えてくれたのだ。  いつものグレコタイプの水着の上にTシャツ姿で、前後に合わせててオールを力強く漕いでいる。野太い声で調子をとる様子やスピード、大学生男子の八人乗りボートとなるとその迫力は勇壮で驚くばかりだ。  真剣な上村の姿を初めて近くで見るとカッコイイ人なんだなと真央は思った。  同じ競技に汗かく者として憧れはあるが、それが異性として好きかと聞かれたらどうなんだろうと真央は首を傾げる。  憧れから始まる恋もあるかもしれないが、これから上村の事を好きになっていく自分の姿が真央にはどうしても想像できないでいた。  上村の存在に気がついた他のボート部員が指をさして黄色い声をあげ始めた。  渡すつもりのプレゼントはずっと真央のバッグに入ったままだ。  今日の練習が終わったら上村は会いに来てくれるだろうか。
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