教室の戸を開けたら、そこには......

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 クリスマスが近づくと、私は溝端くんへ渡すプレゼントのため、マフラーを編み始めた。  初めての手編み、初めての男の人へのプレゼントだった。  お母さんに編み方を聞いて、毎日少しずつ編み上げていた。  冬休み間近の教室、多恵ちゃんが私に聞いてきた。  「美紗ちゃんは、溝端にクリスマスプレゼント、何あげるの?」  なんの躊躇いもなく『溝端』と呼び捨て出来てしまう多恵ちゃんに、嫉妬と羨望の気持ちを抱きつつ、そんな会話に自分が参加していることに内心驚きながらも小さく俯いて答えた。  「手編みの、マフラー......」  「えっ、手編み!?それっ、ちょっと重いかもね」  大きな声でそう言って笑った。  ざっくばらんな性格の多恵ちゃんは、心に思ったことをすぐに口に出す。  その素直な性格は、時に繊細な私の心を傷つけた。  重い...  重いんだ......  その言葉は、重く私の心にのしかかった。  完成して綺麗にラッピングされた手編みのマフラーは......  溝端くんの手に渡ることなく、押入れの奥深くに仕舞われることとなった。
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