待つ男

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 教室の戸を開けたら、そこにはあろうことか雪景色が広がっていた。 私はそんなはずはないと頭を振ってみたが、ひやりとした風が吹き、ぶるりと震え、やはり眼前に広がるのは雪景色なのだと再認識する。 さきほどまで、外ではアブラゼミが風情のない大声を張り上げていたはずなのであるが、ぴしゃりとしまった戸は、それら夏の喧騒までを閉じきっているらしかった。瞬間冷却により汗は乾き、しんしんと降る雪は……。  ――突飛すぎる。私はつい今しがた書き始めた原稿用紙をぐしゃぐしゃに丸めて放り投げた。そもそも、これじゃあ『雪国』の模倣ではないか。  スランプだった。私はセブンスターに火を灯した。もう丸二日、こんな調子である。  中高生に人気のある作家七人を集めて、学園にまつわる短編を執筆させ、それを一冊の本にまとめてアンソロジーとして出版する。  編集よりこの仕事の依頼が届いた時には胸が躍った。同業者の物書きに憧れを抱くのは、私のプライドが許さなかったが、それでも私を除く他六人はいずれも今を時めく人気作家であり、そこに肩を並べられた気がして、素直に嬉しかったのである。
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