そんな君が

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「早く言いなさいよ」 見慣れた駅の待合室で、見慣れた制服の女の子が、聞き慣れた声で俺に促す。 「・・・お前、ユリ、だよな」 夏の陽射しが差し込む窓際のベンチは、いつもユリが座る場所なのだが 「お前、バカみたいなヒヨコ頭はどうした」 目立つ事が大好きな幼馴染みは、田舎町には似合わない金髪だった筈。 「バカとは何よ!それより、早く言いなさいってば」 「いや、何をだよ」 突然すぎる要望に何を求めているのかと、眉間に皺が寄る。 「・・・す、好きなんでしょ、黒髪めがね」 「別にあんたの為じゃないけど」 「気分転換になるかと思って」 そう言ってチラリとこちらを見る姿に、ぐっと胸に込み上げる何か。 ゆっくり近づき、君の赤い耳に唇を寄せる。 蝉の合唱と共に、望んでいたであろう言葉を囁けば、夏のせいだけじゃなく熱くなった君。 愛おしい、そんな気持ちを初めて感じた瞬間だった。
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