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「お次はどこに参りましょうか?お嬢様?」
「もぉ!だから言ったでしょ?狼歩さんの好きな所行こうって!」
ほっぺを膨らませたら、ポフンと空気が抜けた。
狼歩さんの両手で、私のほっぺたを包んだから。
真っ赤になりながら……。
「もお~!」
とまた膨らまそうと力を入れても、膨らまない。
「この位で赤くなるなんて蒼井さんはウブ(たまに狼歩さんは古い言い回しをする。)ですね~。」
意地悪く狼歩さんは微笑んだ。
思ったよりゴツゴツした男の人って感じの骨ばった手。
少しだけひんやりしている。
手の冷たい人は心が温かいんだっけ……。
院長の手は、まるでグローブみたいに大きくて、あったかかったなぁ。
蒼井の顔も頭もすっぽり包み込んで、蒼井と同じハンドクリームの香りがしたっけ。
蒼井の気持ちわかってて、蒼井の施術時間に小刻みに席を外して、あっちこっち行って、
「お待たせ致しました。」
って何もかもお見通しの顔で必ず、
「あはは。」
って笑う。
たった10分の施術時間のはずなのに、私は一時間以上ベッドの上。
みんな帰ってくのに。
あれはどんな意味だったんだろう?
他の患者様の施術はバスタオル越しなのに、なんで私は素手なの?
結局、施術の間話すこともなく……。
あなたは私と同じ香りで私を癒やしながらも突き放していた。
今思うと院長の手の平で私は踊ってただけなのかな……。
「蒼井さん?蒼井さん?」
「蒼井さん!!!」
ビクッ!!!
「あっ!狼歩さん!」
ぼんやりした白もやの様な視界が、一瞬にしてクリアになり、やっと目の前の狼歩さんと視線が合った。
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