第1章

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 教室の戸を開けたら、そこには誰もいなかった。いつもの見慣れた風景に思わずほっとする。この朝一番に見る誰もいない教室というのが私は好きだった。  いつからだったろうか、朝に誰もいないというのが当たり前になったのは。部活の朝練の時だったろうか。日直の時だったろうか。それとも休日に忘れ物を取りに来た時だったか。  私は一番に教室に入った時、初めての感覚に驚いたものだ。いつもざわついた教室にこんな風景があるなんて思いもしなかった。  不思議と私はその風景に魅力を感じるようになった。  それからは毎日のように朝早くでかけ、誰よりも早く教室に入った。みんなからは朝はやいね、と言われるようになった。  早く来るのが目的ではないが、結果的に早く来ているのは間違いない。先生からも遅刻をしない模範的生徒として認識されるようになった。  ある日私は熱を出した。夜にうなされてとても苦しかったのを覚えている。  その時私は無性にあの風景を見たくなった。  夜中だというのに、体がいう事を利かないのに私は無理して教室に向かった。どうしても、見たかった。  学校につき、校門をよじ登り、そこで鍵が開いてない事に気づいた。  当たり前だ、宿直の先生が戸締りしているに決まっている。  私は熱で朦朧としながらも鍵が開いてないか調べてみることにした。鍵がぎりぎりかかっている窓が一つだけあった。  何度も頑張ってがたがた揺らすと窓が開いた。  警報が鳴るかもしれないが、私は中に入り教室を目指した。  もう意識はほとんどなかったのかもしれない。教室の前にたどり着き、一つ深呼吸をする。  ---そして---  私の意識が戻ったのはそれから数日後の事だった。目が覚めたのは病院で、目が見えなくなっていた。  聞いた話によると、私は朝教室で発見されたらしい。意識もなく救急車で運ばれてからずっと眠ったままだったとのこと。  倒れた時にどこかをぶつけたらしく、その後遺症で目が見えなくなったみたいだった。  私は最後に教室を見られたのだろうか。視力を失った悲しさよりもその事ばかりが気になった。  でもこれからは、どこの扉を開けても誰もいることはないだろう。私にはもう見ることは出来ないのだから。
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