第1章

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教室の戸を開けたら、そこには 「おはよー」 「おっす」 「おはっ」 見慣れた顔 聞き慣れた声 通い慣れた教室 そこには、クラスメートたちの姿があった。 「お、おはよう」 俺は戸惑った。 確実に昨日 『ボクは死んだはずだ』 あれは夢だったのか? 頭の中で作り出した妄想だったのか? ボクはイジメられていた。 親友からも 片思いの女の子からも クラスのリーダーからも 担任の先生からも いや、くくりが間違えている。 クラスそのものからイジメられている。 平成〇〇年 政府は止まらないイジメを何とか食い止めようと、新しい法律を作った。 『イジメ体験法』 というものだ。 この法律は無くならないイジメをなくすのではない。痛みを分かち合い、意識を共有しあい、以心伝心を目指すものである。 我が校はモデルケース第一号に選ばれたのだ。 そして、俺は五番目の体験者となったのだ。 一人目、二人目の時はみんなやり方がよく分からず、イジメというよりからかったりちょっと嫌な感じにさせるくらいだった。 一人の体験日数は月曜日~日曜日の一週間で、翌週には体験者を除いた他のクラスメイトの中からくじ引きで選ばれるのだ。 三人目から少しクラスの雰囲気がおかしくなった。 まず、体験者が選ばれた直後にクラスのリーダーが声を上げる。 「俺たちは国の政策で選ばれた人間だ。キチンと国のモデルケースになるため、ちゃんとイジメをやろう」と言い出した。 みなざわついていたが、クラスで強い発言権を持つものたちが同調し始めた。 「俺もそう思う」 「私も」 こうなると、残りの人間は従わざるを得なくなり選ばれた子だけが取り残されてしまった。 「俺もイジメなんてやりたくない。でも、俺たちが適当にしたら本当にイジメられている人を救えないと思う」 リーダーは優しい口調で体験者に投げかけた。 「うん、分かった」 その子は意見に同意した。 担任も隣で話を聞いていた。 「本当にいいのか。イジメっていうのは思っている以上に苦しいものだぞ」 「私の体験が役にたつなら」 担任は目を閉じ大きく頷いた。 「そこまでの覚悟があるなら止めない。だが…」 そう言って一枚の紙を取り出した。
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