第1章

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「では、最後にこの世界の話しをしよう」 ボクは抵抗をあきらめ彼の話しを聞くことにした。 「君が自殺したせいで政府は世間からものすごいバッシングを浴びたんだ。あんな法律を作るからこんなことになったんだとね」 開いているドアを閉め話を続ける。 「君の両親は政府を訴えた。世間も絶対勝てると応援していた。しかし」 彼はボクのイス(画鋲付き)を持ってきて座った。全く痛そうではない。 「政府は君の両親に取引を持ちかけた。君の家は小さな町工場だったよね」 小さく頷き返す。 「ずいぶんと借金があったみたいだね」 確かに最近よくお金の話をしていたけど借金があったなんて。 「政府は中小企業支援費とかこつけて一千万の融資をすると言い出した」 「一千万…」 「君の両親は喉から手が出るほど欲しかったんだろうね。裁判で証言をひっくり返したよ」 ボクは吐いてしまった。理解できない状況と受け入れがたい現実に直面して。 「そこから不起訴になるまでは早かった」 吐瀉物と涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった顔で反論した。 「父さんと母さんがボクよりお金を選ぶ訳がない」 「確かに普通に生きていたらね」 「あっ…」 「そう、君は脳死状態。生命維持にいくらかかるかな?このままでは一家で無理心中なんて未来もあったかもね」 「それでボクはどうなったの?」 本当は聞きたくはない。でも、口が勝手に動いていた。 「君は政府の加護の下、最先端医療を受けることになった。もちろん医療は政府持ちでね」 家族に見放されたと捉えるべきか、命を繋いでもらったと感謝するべきか、判断がつかなかった。 ふと、足元を見ると先ほどボクが吐いた吐瀉物がなくなっていた。 拾い集めたとか、水で流したとかそういうなくなりかたじゃない。 痕跡そのものがなくなっているのだ。 まるで初めからなかったかのように。 「いかに最先端医療といえど、脳死状態の人間を目覚めさせるほどの技術はなかった。しかし、君の体は最先端医療という名を借りた人体実験に使われることになった」 「人体実験…」 「ある科学者が[人間の脳は電気信号でやりとりしている。だから人間の脳とネットを繋げば意識を電気信号で飛ばせるのでは]と考えた」
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