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手作りの犬小屋の前で、一匹の老犬が苦しそうに横たわり、その隣で3人の親子が心配そうに見つめている。
「いや、死なないで。死なないでポチ」
ハァハァと苦しそうに息をする犬を、女の子は優しくさすった。
老犬は頭を上げて、女の子の手を舐めた。
そして、クゥンと鳴いて、目を閉じた。
* * *
高志は庭の土をシャベルでならし、額の汗を拭った。
「ふぅ、あとは墓標を立てるだけだな。とりあえずこれを置いておこう」
シャベルを壁に立てかけ、ならした土の上にポチの使っていた食器を置いた。
そこへ、お盆にお茶を乗せた美咲が現れた。
「お疲れさま。しっかり、水分補給してね」
「ありがとう。瑠璃子の様子はどうだ?」
「泣きつかれて寝ているわ」
「そうか。ポチは瑠璃子が生まれたときから一緒だったからな。兄弟みたいなものだし」
「早く元気になってくれるといいんだけど」
二人は、庭に置かれた食器を見つめた。
* * *
美咲は、寝ている瑠璃子に詰め寄った。
「瑠璃子、起きなさい。今日こそ幼稚園に行くのよ」
瑠璃子は布団を頭から被って、顔を隠した。
「いや、そんな気分じゃない」
「いつまでも泣いていたら、ポチも悲しむわよ」
「ポチはもういないもん。悲しむこともないもん」
瑠璃子の声は涙声に変わっていった。
* * *
ポチがなくなって一週間が経過した。
瑠璃子は幼稚園に行かず、ずっと泣き続けている。
今日は、幼稚園に行ってくれただろうか。
「ただいま」
「高志さん、お帰りなさい」
「瑠璃子はどうだった?」
「今日も駄目だったわ」
「そうか、どうしたもんかな」
ふと、家の庭をみると、ポチの食器の隣に犬小屋が置かれていた。
「なんで、あそこに犬小屋が」
「近くで見たら、わかるわよ」
庭に出て犬小屋の中をのぞき込むと、目を腫らした瑠璃子が寝ていた。
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