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採用が決まった時、なぜかこの時だけ、叔父の様子がいつもと違っていた。
その時はまるで、最愛の息子の成長を喜んでいるかのような、満面の笑みだったからだ。
叔父のあんな顔は見たことがなかった。
笑わないわけではないが、表情に出す前に『口撃』してくるのが叔父だった。
生涯のうちで唯一の例外がこの時だった。
就職先は報道関係で、スポーツ紙がメインの記者だ。
私には高校時代、いやそれ以前からの夢があった。
『プロ野球選手になること』
日本の優秀な選手が海外に流れて行ってしまうことは残念でならないが、そういう存在になりたかった。
しかし、高校一年の夏の合宿の時に利き腕の左肩を見事に壊してしてしまった。
一年生ながら無理を押して公式戦を投げ捲くり、大敗したあとも一心不乱に投げ続けた。
そのツケが回ってきたわけだ。
ボールを投げられないどころか、掴むことさえ困難になっていた。
肩だけではなく、肘や手首まで、今でも自分の思い通りに動かない。
叔父は静観しているように見えた。
のちにわかったことではあるが、この時、叔父の持つ会社が医療福祉の事業を始めている。
近年、難病といわれる病を次々と解明し、「神」とまで崇められている。
神様って我がままな自分勝手なヤツ、と私は思っていたがまさにピッタリ一致する人物が叔父だった。
―― これって、叔父が私のために始めたことなのか? ―― などと思っていたが、私は口に出さなかった。
そして叔父もなにも言わなかった。
主にスポーツ紙の新聞記者をしている私は、活躍している選手を自分自身に置き換えて記事にしていた。
未練たらしいが、今でもプロ野球選手は私の夢だ。
しかし、24歳の私としてはもう叶わない夢でしかない。
ひとりの力ではどうにも出来ないスポーツが野球だ。
仲間との一体感も胸を熱くする。
『燃える!!』
そして今は、現実に返って、冷やされている。
今のところは、そんな感じの生き方だった。
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