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そんな中で声をあげた男がいた。
「何故? 納得できない。僕はこの店が好きだ。なんだったら毎日だって通う。友達も連れてくる。だからマスターやめないで」
理由の青臭さと大げさな泣き言に、高広は最初鼻で笑った。
大人が正当な理由で『辞める』と決めたものを、いっかいの他人の感傷でくつがえせるはずなんか無いと思った。
けれど男は、言葉通り、店に友達を連れて毎日通い、騒ぎ、笑い、店の前を歩く通行人を、
『いったい何事だ?』
と様子を見に引き入れた。
そして高広は、ひとつの小さな奇跡を見る。
静かで空気が読める大人で、客にちょうどいい空間を提供できるだけのマスターだと思っていた男が、
――ボトルを宙に回した――
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