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3 出会い
高広は医大を卒業したものの、医師としての道を選ばず、ホストクラブで働き始めた変わり者だ。
高広は『人』を見てみたかった。
欲望は人を正直にさせる。
ホストクラブは高広の観察欲を満たしてくれるいい場所だった。
けれど同時に『人間嫌い』の側面を持つこの複雑な男は、時折どっと疲れる日もある。
そんな時に、街の片隅にひっそりと佇む、このバーを見つけたのだ。
落ち着いた静かなマスターがひとりで、ひっそりとやっている店。
誰とも話したくない時は黙って放っておかれ、少し人恋しい夜は、
「高広さん、今夜は何かいいことがありましたか?」
マスターはでしゃばりすぎない程度に声をかけてくれる。
そんなすべてが高広にとってちょうどいい空間は、少し人疲れした夜など、気持ちのいい時間を高広に提供してくれた。
そんな店なのだが、栄枯盛衰の流れ。
派手なパフォーマンスが持て囃される現代、目を引く『売り』がなければ、静けさは大波に飲まれてしまう。
やがて店はたたまれる運命だった。
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