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私がいつまでも落とした本を拾おうとしないので、不思議に思ったのだろう。
彼が代わりに背後からひょいとそれを取り上げて渡す。なにやってんのと言いながら。
「そんな衝撃的なことでも書いてあった?」
「いえ、……今、矢島くんと園田くんが通ったので」
「ふうん」
受け取った雑誌をレジへ持っていく。その間彼はショーケース仕立てになった入り口の外で、そこに並ぶ瓶詰めの香水を眺めていた。
「買うんですか?」
「…んーや…べつに。買うとしたらどれがいい?」
どれが、と言われても。そう言いたい気持ちで背の高いガラスケースを見上げる。 男性でも香水買うんだとかそんなこと思ったりして。
人並みに背丈のある彼であればそのテスターにも悠々と手が届くだろうが、生憎自分はクラスでも五本指に数えられるだろうかというくらいに小柄なのだ。届くはずがない。
もしかして、遠回しに馬鹿にされているのだろうか。この人のことだから。しかし小さく確かめた横顔からはそんな気配も窺えず、首が痛い、と思いながらまた棚を仰ぐ。
「…あれは色がきれいですね」
言いながら、桃のそれにも似た、少し濁った白を指で差す。煌びやかな色合いをした瓶の中、端の方
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