パフューム

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で居心地悪そうに収まったそれを。 彼は口先だけで、へえ、といって、他のものと間違うことなくそれを手に取り、底に貼られたシールの文字列を目で読む。こういうとき彼はいつも、隣の私にも見えるように手の位置を低く持つ。 「リキュールのイメージだって」 「…お酒ですか」 「でも、名前もきれいだし」 お酒と聞いてあまり良い印象を持たなかった私に、取り繕うように言う。パスティス、と声に出して読み上げるが早いか彼はもう一度入店し、するりとレジまで行ってしまった。 それが本当に身軽なので、追いかけるよりここで待った方が早いと判断してしまうほどだ。ちらりとポップの値段を見ると、途端に背筋が落ち着かなくなる。大丈夫なのだろうか。 私のそんな心配もよそに、袋を提げて出てきた彼はじゃあ帰ろうと言って歩き出す。午後六時を少し過ぎた頃合いだった。屯していた学生も、寮での夕飯に合わせて失せていく。 とても自然に指を絡ませながら、噛み潰したストローを離して、静かに。 「俺矢島たち嫌い、」 まるで十分前、そのジンジャーエールを一口含んだときに呟いた「のどがピリピリする」と同じ響きだった。それはつまり、何かしらの反応を期待しているわけではないということ。本当に十四かと疑われるほど人間関係に頓着の無い彼が、他人についてこんな風に言うのはめずらしい。普段は、自分が関心があるかないかだけで判断しているのに。 「どうしてですか?」 「妬くっつったじゃん」 がさがさと音を立てる、厚い紙袋の中の小箱。何のために買ったかなんて今さら訊くにも訊けないことだ
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