「俺」

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 教室の戸を開けたらそこには。 「よお、いつもの俺」    自分自身がいた。  寸分違わぬ俺がそこには居た。 「どうだい? 何食わぬ顔で、ただただ平素に、普通に凡庸にこの学び舎に足を踏み入っている気分は? 最高かい?」  最高。    その言葉を聞いてこの目の前にいる俺と自分自身との違いに気づく。  そんな、皮肉ったらしい言葉をこの俺が使うはずがない。  目の前にいる俺は、自身に満ち溢れているような、そんな風格が漂っている。  こんなの「俺」であるはずがない。  「『俺ではない』か……。酷いねぇ、これでも俺はお前だというのに。そんなに俺は、お前にとって醜く映っているのかい?」    やめろ。    聞き飽きた声で。  俺の声でそんなことを言うな。  俺にはそんなセリフ似合わない。  とっさに耳を塞ごうとするもなぜか体は動かない。  そんな俺を嘲笑するよう、もう一人の俺は教室内を闊歩し始める。  不意にある席の前でその足を止めた。    俺の席だ。 「ここがお前の居場所だ」  そう言って、俺の席をそっと撫でだす。 「はっ!! こんなちっぽけなものがお前の世界だ!! おもしろいじゃないか!! 傑作だ!! なあ?」  傑作なわけがない。  そんなの俺が一番わかっている。  頼むから、そんなこと言わないでくれ。 「言葉にすることが嫌か? 認めるのが怖いか? 惨めな己が可愛いか? ――それともこいつらが憎いか!? ああ!?」  周りの椅子、机諸々がもう一人の俺の手により乱雑にただただ暴力的に轟音をまき散らし薙ぎ払われる。 「――×××××!!」     言葉が出ない。  いや言葉にならなかった。  俺がひねり出した言葉は、声として、台詞として発生することはなかった。 「よくもまあ、そんなこと言えたもんだな? 今まで散々言えずに飲み込んできた言葉なのにな? それをしかるべき場所で言えればすべては丸く収まっていたのかもしれないのに、なあ?」  そう肩で息をしながら、軽蔑するような口調で語りかけてくる。
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