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教室の戸を開けたら、そこにはスニーカーを履いた、巨大な足があった。そう、並ぶ机もロッカーも踏みつぶして、大きな右足が一本、天井からにょっきりと教室を埋めていた。
「な……」
人間はあまりおどろくと、悲鳴が出ないというのは本当らしい。俺は廊下に座り込むと、逃げることも思いつかずにバカみたいに震えていた。
遅刻だと思って駆け込んだら、なんなんだこれは? クラスメイト達は踏みつぶされたのか? なんで俺がこんな目に?
巨大な右足は、俺の事に気づいていないのかじっとしている。それにしても、この靴は見覚えがある。一体どこで見たのだろう。
黒に近い茶に、ロゴマーク。そして先が少し汚れた靴ヒモ。
俺は恐る恐る自分の足を見下ろした。黒に近い茶に、ロゴマーク。そしてやっぱりヒモの先端が汚れている。
間違いない、これは俺の靴だ! 俺はおかしくなりそうだった。なんで俺の足が巨大化しているんだ? てか、俺の足はここにこうしてちゃんとあるし?
でも、何度見ても目の前にあるのはどう見ても俺の足の巨大版だ。ヒモに引っかかっている猫の毛まで、一緒だ。
そう。猫の毛。今朝、遅刻だと焦った俺は、通り道で寝ていた年取った猫に気付かず蹴飛ばしてしまったのだ。猫は苦しそうに鳴いたが、急いでいた俺は悪態をついただけで足を止めなかった。
そういえば、猫って長年生きてると化け物になるんだっけ?
まるで振り子のように、右足が後ろに遠ざかった。かかとの方には窓があるはずなのに、邪魔にはなっていないようだった。
「え?」
それが前に蹴りだすための予備動作だと俺が気づく前に、勢いをつけたつま先が僕のみぞおちに
――完――
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