ショウゴウ

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 素早く、鶏もどきをその視界に捉えた俺は、そこで、あまりにも滑稽な様を目にする。 「ゲ……ェ」  ソイツは、どうやら壁に自ら激突したらしく、フラフラと……それこそ、千鳥足になっていた。目を疑うようなその光景に、俺は一瞬唖然とするが、すぐに、今がチャンスだと気づく。  今なら、頭が無防備っ!  大きささえ度外視して見れば、後ろから見たソイツは普通の鶏と変わらない頭をしているように見える。だから、俺は渾身の力を込めて、剣を縦に降り下ろす。 「はぁっ!!」  シュッと風を切り裂く音の直後、硬く……それでいて弾力のある感覚が剣を通して伝わる。真っ赤な、生臭いものが、鶏もどきの頭部から噴き出す。 「ゲ……ゲェ…」  そうして、鶏もどきは、ドチャリと倒れ、すぐに黒い光を放って霧散する。生臭かった、赤いソレとともに……。 「勝っ……た?」  呆然としながら、俺はそう呟く。鶏もどきが消えた後に残ったのは、サッカーボールほどもある黒く、大きな卵。おそらく、これが鶏もどきのドロップアイテムだ。  俺はゆっくり、その卵に近づくと、剣を鞘に戻し、じっと観察する。 「大きさは凄いが……卵、だよな?」  まさか、これからあの鶏もどきが生まれるのか?  そんな、とてつもなく嫌な想像をしてしまい、俺はブンブンと首を振る。もしもそんなことになれば、俺はしばらく鶏の夢にうなされそうだ。  ともかくこれを持ち帰って、冒険の書を調べよう!  俺はリュックを背中から下ろすと、その中に卵を入れようとする。が、卵に触れた瞬間、その生暖かい感触に、思わず手を引っ込める。まるで体温を持っているかのような卵に、俺は不安を口にする。 「本当に、コレから生まれないよな?」  リュックに入れて持ち歩いている最中に、あの耳障りな声で叫ばれたら……今度こそ、心臓が止まるかもしれない。  冒険の書を、たかだか精神的なダメージを忘れたいがために置いてきたのは失敗だった。強い後悔が心に渦巻く。  しかし、それでも、俺にはこれを持ち帰らないという選択肢はない。だから、せいぜい後ろで叫ばれても正気を保てるように、卵を入れたら、しっかりとリュックのチャックを閉めるのだった。
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