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石壁が延々と続いた薄暗い部屋。その壁の所々には、淡く発光している苔らしきものが見え、それがこの空間に明かりをもたらしていることが分かる。
やけに淀んでいるように感じられる空気の中、俺は想定外の事態に、バクバクと暴れる自分の心音を、ただただ聞くことしかできない。
「ここ、は……?」
かすれた声で、俺は、そう呟く。
『目が覚めたら知らない天井が……』なんて表現が小説で使われることはよく知っている。が、自分自身がその状況を実体験することになるなど、普通は考えもしない。
上半身を起こし、混乱ばかりが広がる頭をブルブルと振り、夢であることを願って頬をつねるなんていう定番な行動を取ってもみたが、それはきっちり鈍い痛みを伴って返ってくる。
現実。まごうことなき、#現実__リアル__#。
それが、どうにか働いた俺の頭が、最初に認識したことだった。そして、次に、俺は辺りを見渡してみる。
家具と呼べるようなものは、今、俺が転がっているベッドと、小さな机くらいしかない。そして、そのベッドに横づけされた机のさらに奥には、薄暗い廊下が顔を覗かせている様子が見えた。
分からない。なぜ自分がこんなところにいるのか、全く記憶がない。その事実は、純然たる恐怖として俺に襲いかかる。
ブルリと、寒くもないのに震えが走る。ここにこのまま居ても、何も変わらない。だから、俺はとにかく行動をしようと、ベッドから出ようとして……。
「な、なんだこれっ!?」
直後、俺は自分の姿の異常に気づいた。俺は、なぜかRPGゲームに出てくるような革の鎧を着ていた。ご丁寧に、手甲までついている。
まさか……。
そう思って、俺はベッドから抜け出すと、どうやら下半身もしっかり装備がなされているようだった。ベッドの上だというのに、靴まで履いている。しかも、先程は目を向けていなかったベッドの隅には、黒い鞘に収まった剣らしきものと、肌色を基調とした革の本があった。
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