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「はっ、はぁっ、はっ……」
何も分からない中で見た、狂気とも言える文字の羅列。それは確実に、俺の心臓を圧迫していた。
「っ……何なんだよ」
男だというのに泣きそうになる。大体にして、俺はホラー系のものは苦手なんだ。たとえ小説であっても、そんなものは見たいとは思えない。にもかかわらず、分からないことだらけの状況で、あんなものを見て、平静を保てるはずもなかった。
「でも……さっきのは一体……?」
最初の文章。あれは、ちゃんとした文にするならば、『注意、剣と本は常に持ち歩け。扉が……』 となっていた。『剣と本』……それはおそらく、今投げた『冒険の書』と、その側にあった剣のことだろう。
正直、もうあの本に触りたくもない。けれど、きっとそういうわけにもいかない。
何せ、今のわけの分からない状況下において、情報源はあの本だけなのだから……。
おそるおそる、俺は投げた本を覗き込む。ページは捲れたままだ。
「……えっ?」
しかし、俺はそこで目を疑う。そこに先程の狂気はなかったのだ。そこにはただ、『冒険の書』としか書かれていない。
そっと手を伸ばして、俺はページを見る。もしかしたら、投げた拍子に違うページが開いているだけなのかもしれない。
そう考えて次のページをめくると、俺はまたしても目を剥くこととなる。
『バグ発生
削除、削除、削除、削除、完了』
先程まではなかった。あの『一日目』と書かれていたページが更新されている。しかも、今回は俺の行動じゃない。
「バグ……?」
それは、パソコンなんかの機械によく使われる言葉だ。けれど、とてもじゃないが、この本が機械だとは思えない。
それから、何度もページを見返したが、先程の狂気を孕んだ文字はどこにもなかった。そう、どこにも、その痕跡は、見当たらなかった。
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