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教室の戸を開けたら、そこにはいつもの光景。
「おはよー」
さっそく親友の彩芽が話しかけてくる。
「おはよー、彩芽」
私は手を振り、彼女の元へ。
僅かな違和感。
挨拶を交わしたばかりの彩芽と視線が合わない。
近づいて来る彩芽、近づいて、近づいて…止まらない!ぶつかる!
思った瞬間に彼女の体は私をすり抜けた。
「え?」
慌てて振り返ると、彩芽は私の後ろにいた美由紀に話しかけていた。
どういうこと?
わけもわからないまま、私は改めて教室を見回した。
藤谷君に鈴木君、松田さんに吉原さん。それに栗田君と向井さん。
クラスメイトたちはそれぞれがいつもの光景でお喋りをしている。
でも、なんだろう。この違和感。
私だけが…この場に存在していないような虚無感。
ああ、思い出した。
私は小さくため息をつく。
平和だと思っていた日々は、突然の巨大地震で全てが崩れ去った。
楽しかった学校生活も、ともに過ごしてきた友人たちも全てが。
どうした偶然か、私だけがこうして生き延びた。
私はそっと、手にした献花を教室だった瓦礫に置き、合掌した。
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