どこまでも続く空を見つめる姿を、見つめてた。

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教室の戸を開けたら、目の前に広がるのは海だった。しかも、観光地として有名な沖縄や、人気の海水浴場などではなく、ゴツゴツとした真っ黒な岩場。波が当たって白く泡立った海水が、岩を濡らしている。波の音を聞きながら、俺はそっと戸を閉じた。 再び、教室の戸を開けたら、爽やかな風が優しく頬を撫でる森林公園だった。背の高い木々が青空に向かって延び、日差しを遮って過ごしやすい気温。小鳥のさえずりを聞いたような気がしたが、俺はそっと戸を閉じた。 三度、教室の戸を開けたら、静かな湖畔がそこにあった。聞き間違いようのない鳥の囀ずり、さあっと滑らかな水面を撫でる穏やかな風。草のにおい。静かで透明な時間。 しかしやはり俺は、そっと戸を閉じた。 おかしい。普通に登校して普通に校舎に入り、普通に教室の戸を開けたのだが。 あらためて辺りを見渡せば、いつもと変わらぬ廊下。教室のドアの向かい側に並んだ窓。 ドアもいつもと変わらない。 じゃあ俺が変なのか? いやそれもない。高校二年の夏休みが終わり、今日は登校日で間違いない。 少なくとも、教室のドアがどこでもドアになっていなければ、普通だ。
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