第一章――捜索依頼

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第一章――捜索依頼

 十月二十三日は、吹く風の冷たい日だった。今は日が傾きかけた夕方前の時間である。夕桜市夕桜町の南部、ビジネス街であるゆざくら南通りから逸れていった先にある裏通りを、戌井冬吾(いぬいとうご)は歩いていた。  冬吾は今年十九歳になった大学生である。ともすれば不良チンピラの類と誤解を受けがちな目つきの悪さを小さなコンプレックスとするだけで、他には特に取り柄のない、長身の男だった。無地のシャツにややダブついたジャンパーを羽織り、下はジーパンという服装。その身体つきは筋骨隆々というほどではないが、それなりに鍛えられている。高校時代から肉体派のバイトを好んで続けていたためだ。  冬吾の両親は既に他界していた。母は幼い時分に、父親は今から四年前に。今は唯一の肉親である妹の灯里(あかり)と共に生活している。  冬吾は今も、父親の形見であるナイフを持ち歩いている。それは護身用というよりは、お守り代わりとしてという意味合いが強い。あるいは、冬吾にとっての精神的な補助装置と言ってもいいかもしれない。  死んだ父の代わりに妹を守ることが自分の役目である。冬吾はそう信じて生きてきた。だから、自分が弱っているところは妹に見せたくなかった。そう思っているうちに、自然と自分を強く保つ術は身についていった。  そんな考えを冬吾が本格的に持ち始めたのは、灯里の病気が分かってからのことだ。  父親が亡くなってしばらく後、灯里はとある難病を発症した。元々が病弱であったのと、父の死のショックとが重なったためだろうと思われた。その病気のせいで、灯里はあまり自由に出歩くことができない。学校に行くくらいなら大丈夫なのだが。
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