第三章――首斬り天狗

40/67
前へ
/220ページ
次へ
 更なる異変が起こったのは、そのときだった。突如として、冬吾の視界は真っ暗になる。その直後、 「な、なんだ!? 何をする気だ、やめろ!」  佐渡の悲鳴が響く。  ――何が起こった?  理解が追いつかないうちに、部屋の中からまた音が聞こえた。何か重い物が一度にたくさん床に落ちるような大きな音。その数秒後にまた別の音。水音を伴う、厚い肉を引き裂くような音――冬吾は嫌な予感がして、穴から離れた。今の音は、まさか……? 「な、なにが起こってるんですか?」  怯える啓恵の質問に、なんと答えるべきか逡巡していると――  カチャ、と扉の向こうで音がした。内鍵が外されたらしい。 「安土さん、下がって!」  冬吾はすぐに後腰に挟んであったベレッタを引き抜いた。昨夜の反省を踏まえて、既に弾は装填済み、親指でセーフティを外すだけで発砲が可能な状態にしてある。部屋に窓はなく、出入り口はここ以外には存在しなかったはずだ。黒衣天狗が逃げ出すには、必ずこの扉を開ける必要がある。……しかし、数秒待っても黒衣天狗が飛び出してくる様子はなかった。
/220ページ

最初のコメントを投稿しよう!

259人が本棚に入れています
本棚に追加