第三章――首斬り天狗

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 中で待ち構えているのか? だったら、こちらから中に入るのは危険かもしれない。しかし時間が経てば、佐渡が殺されてしまうのではないか。迷っている猶予はない――冬吾はノブを掴み扉を開けた。  部屋には明かりが点いておらず、通路側から差し込む光によってかろうじて中の様子がわかった。 「うっ……」  そこにあった、あまりにも衝撃的な光景に言葉を失った。扉の二メートルほど先に黒衣天狗が立っている。そして、その後ろには、デスク上に横たわった死体があった。先ほど首元まで掛けられていた布は、肩の辺りまで剥がされている。その肉体が既に生命活動を行っていないということはすぐにわかった。  その身体には、もう首がなかったのだから。 「いやぁああああああっ!?」  冬吾の後ろにいた啓恵が叫ぶ。死体を見てしまったのだろう。死体の、首があった位置からは、未だに勢いよく血が噴出していた。それは、まるで生命の残滓のようだ。まさにたった今、佐渡拳の命が絶たれたことを意味している。  黒衣天狗の右手にある刀には、べったりと赤いものが付着していた。冬吾が聞いた、肉を裂くような音はそれだったのだ。黒衣天狗がその刀で、佐渡の首を切り落とした……。
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