第三章――首斬り天狗

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 冬吾は黒衣天狗へ銃を向け、問い詰める。 「……なんで殺した? お前、佐渡の命令で動いていたんじゃなかったのか?」  冬吾の考えでは、黒衣天狗を操って自分たちを消そうと動いていたのは、調査が進むと都合が悪い人物――つまり、涼城花凛を殺害し、三億円を手にした犯人である佐渡だと思っていた。いや、今でもそれが間違いだったとは思わない。しかし、それならどうして、黒衣天狗は依頼主である佐渡を殺した? 「…………」  黒衣天狗は答えず、ただその後方で左手に持っていたものを手前へと引き寄せた。キャスター付きのキャリーバッグだった。色、形状からして、監視カメラに映っていたものと同じだ。 「三億円……?」  まさか、黒衣天狗は三億円を奪うために依頼主を殺したというのか? しかし、バッグはそれほど大きく膨らんでいるようには見えない。いや、乃神が言っていたように、三億の体積はバッグの大きさに対してそれほどでもないから、外見上はわからずとも中に入っている可能性は充分ある。  冬吾は、黒衣天狗が左手にキャリーバッグの持ち手の間に挟み込むようにもう一つ、黒い風呂敷包みのようなものを持っていることに気がつく。大きさ、質感からして、死体とデスクにかぶせられている布と同じものだろうか。中には何が入っているのか、ボールのような膨らみがある。大きさとしては、人の頭くらいの……人の頭?  冬吾は再び死体の周囲に目を向けた。……ない。切り落とされたはずの佐渡の首は見当たらなかった。とすれば、あの包みの中には、佐渡の生首が入っているのか?
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