第三章――首斬り天狗

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 そう思ってもう一度包みへと目を動かした、その時――黒衣天狗の左手から、何かが落ちた。包みの布の裏に握りこんでいたらしい。それは、小さな金属の塊のように見えた。  それが床に着地したその瞬間、爆音と閃光が冬吾の世界を支配した。視界が一面真っ白になり、激しい耳鳴りで、何も聞こえない。驚いて何か叫んだような気がするが、自分の声すら聞き取れず、何がなにやら分からない状態だった。何が、何が起こった――!?   直後、冬吾は前からぶつかってきた何かにはね飛ばされ横合いに倒れ込んだ。ぶつかってきたのは黒衣天狗だろう。刀で切りつけられたかとも思ったが、身体にははね飛ばされた以外の痛みはなかった。  ――逃げられる! 倒れたまま銃を構えようとしたが、自分が今どちらに銃を向けているのかもわからない。この状態のまま発砲することは不可能だった。  しばらくすると、段々と視力が戻ってきた。まだ耳鳴りは残っているが、現状の確認くらいはできそうだ。床に手をついて、ゆっくり起き上がる。扉から少し離れた位置に啓恵が倒れていた。近づいて確かめてみるが、怪我をした様子はなく、ただ気を失っているだけのようだ。  黒衣天狗の姿は跡形もなく消え去っていた。当然、キャリーバッグもだ。後に残されたのは、佐渡が殺されたという事実……そして、敗北感だった。目の前で相対しながら、またしてもしてやられた――冬吾は、自分の中に巻き起こる無力感と悔しさに打ちひしがれる。  後悔した。黒衣天狗がなにかする前に、まず撃つべきだったのだ。それを自分は、相手が刀しか持っていないと油断してしまった。同じ理由で昨夜も痛い目を見ているというのに。 「くそっ……」  冬吾は壁に拳を強く打ち付けた。
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