第三章――首斬り天狗

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「殺せたはずなのに殺さず、その場から逃げただけ……なにか理由があったのかな?」 「……もしかしたら、殺す必要がなくなったからじゃないか?」 「どういうこと?」 「黒衣天狗は元々、佐渡の依頼で俺たちを殺すように指示されてたんだろ? だったら、佐渡が死んだ今、俺たちを殺す理由はなくなったはずじゃないか」 「ふぅむ……。一理ある……けど、それならそれでおかしな話が出てくるよ? 黒衣天狗はわざわざ伏王会を脱退してる。それは、あたしたちを殺すためでしょ?」  そうだった。そういう話もあった。自分たちを殺すために伏王会を抜け出てきた殺し屋が、その相手を殺さず見逃すというのは不可解としか言い様がない。 「……それもちょーっと、気になってるんだけどね」 「なにが?」 「黒衣天狗が伏王会を離脱したこと。それまでずっと組織に雇われてたヒットマンが、一つの依頼のためにそこまでするかな? 組織の庇護や補助を受けられなくなることを考えると、佐渡さんの依頼のためだけにフリーになるってのはちょっと考えづらいよ」 「言われてみれば……そんな気もするな。他になにか事情があったんだろうか?」 「さぁねぇ……」  禊屋はまた死体の持ち物などを調べている。そういえば、死体についても一つ気になるところがあった。
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