第三章――首斬り天狗

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「おい、何を見つけたんだ?」  禊屋は手の平を向けて制止する。 「待って! 今なにか思い浮かびそ…………あっ! あーーっ!?」  素っ頓狂な声を出してはたと立ち止まる。興奮したような表情でこちらを見ると、 「…………ノラ。あたし、ちょっとすごいこと思いついちゃったかも!」 「すごいこと……? どんな?」 「ちょっと待ってね。あたしの考えが正しいなら……ここで何かがあったはず……」  佐渡殺し以外に何かがあったということか? よくわからない。  冬吾は禊屋が何を見つけたのか知りたくて、死体のほうを今一度確認してみる。  冬吾が覗き穴から覗いた際に推察したとおり、黒い布がかぶせられていたのは、元々部屋奥の壁際に置かれていた横長の木製デスクであった。今は奥の壁際より一メートルちょっと手前の位置にある。敷布の上に死体は乗せられたままだ。身体の上に掛けられていた布のほうは、今は傍らにどけてある。どちらの布も、それ自体におかしなところは見つからなかった。黒衣天狗は何を思ってこんなものを使ったのだろうか? 死体やそれを乗せる台を黒く飾り立てることに何か意味が?  前に来室した際にデスクに添えられていた背もたれ付きの椅子は、今は扉近くの部屋の隅に置かれている――これも黒衣天狗が移動させたのだろうか? デスクの上に置かれていたデスクトップ型パソコンは本体、ディスプレイ、キーボード、マウスとまとめて床の上に捨てられたようになっていて、それぞれ横倒しになっていたり裏向きになっていたりする。床には他に、辞書が数冊転がっていた。これらも前に来たときにはデスクの上にあったものだ。
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