第三章――首斬り天狗

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 死体は身動きができないよう、胸、両手首を含む腰、両足首の三カ所をナイロン製のベルトがデスクの天板をぐるっと回る形で拘束されている。すぐには殺さず、身動きできないようにしてから殺害したことになる。それでは却って手間がかかるような気がするが、ここにも何らかの作為があったのだろうか? ざっと見たところ、他に気がつくような点は見当たらない。 「ねぇノラ。キミは、佐渡さんが殺される直前に一度顔を会わせたって言ってたよね?」 「ああ。どうして今日はEMCを休業にしたのか理由を訊いてみたんだけど、後にしてくれって誤魔化されたな」 「ふんふん……あのね。よーく、思い出してほしいんだけど……その時、この部屋に誰かいなかった?」 「え……?」 「だから、佐渡さん以外に店長室に誰か人がいなかったかって訊いてるの」  ……思い返してみると、あの時の佐渡の様子には妙なところがあった。 「実際に部屋の中を見たわけじゃない。でも、佐渡には部屋の中を見られないようにしていたふしがあったな。俺と話している間に部屋の中で音がしたときにも、なにかを隠しているような感じがした」 「音って?」 「なにか、重い物が倒れたみたいな音がしたんだよ」 「ふーん……」 「それに、その後佐渡が黒衣天狗に殺されるまで、俺は裏口の近くで神楽と電話をしていたんだ。表口は鍵がかかっていたし、少なくともその間に黒衣天狗が入ってきたとは考えられない。つまり黒衣天狗はそれより前にこの店内に潜んでいたわけだ。その場所がお前の言うとおり店長室だったのかもしれないな」  だとすれば、佐渡は黒衣天狗を意図的に隠そうとしていたことになる。密談でもしていたのだろうか……?
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