第三章――首斬り天狗

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 元々はサービスの一つとして覗きがあったという話だった。客は無防備な相手を視姦することに喜びを見出すのだろうが、実際のところは、相手からも覗いていることがわかるようになっていたわけだ。そのあたり、商売の現実という感じがする。 「この隙間になにか挟み込んでおけば、蓋が開かないように固定することはできそうだね」  禊屋は覗き穴の確認を終えると、また別の話題を切り出した。 「じゃあ今度は、佐渡さんが黒衣天狗に襲われたときのこと。キミは裏口近くにいて、沢渡さんの悲鳴を聞いてこの部屋の前まで来た……そうだったよね?」 「そうだ。俺より少し先に安土さんが来ていた」  啓恵のいた待機室は店長室から近い位置にあるから、彼女のほうが先に来ていたのは変ではない。 「キミは部屋の中の様子を確かめようとして、扉の覗き穴から覗いてみた……そこで、佐渡さんと黒衣天狗の姿を見たんだね?」 「そうだけど……」 「部屋の中、はっきり見えた?」 「たしか……ちょっと薄暗かったかな。うん、今よりはずっと暗かった気がする」  今、店長室の中は天井の蛍光灯によって照らされている。蛍光灯のオンオフは入り口そばのスイッチで操作ができる。天井と壁が黒色をしているせいで元々暗めの印象があるが、あの時の暗さはそういうものではなかった。 「と、すると……そのとき点いてた明かりはこっちのほうかな」
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