第四章――天狗との対決

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「厚乃木社長から訊きだした、ホテル街での目撃証言……か?」 「そのとーり。マンションの監視カメラすら警戒して顔を映さないようにしていた犯人が犯していた、数少ないミス。まぁ、その時点ではまだ殺害を計画してはいなかったとしたら、ミスとも呼べないかもしれないけど」  厚乃木社長からその情報を得た後、禊屋は佐渡にその内容を話していた。逆に言うなら、そのことをあの時点で知っていたのは、俺たちの他には佐渡しかいなかったということになる。 「その目撃証言をもとに調べられたらいずれは、いいや、明日にも犯人が自分であるとバレてしまうと危惧した佐渡さんは、一刻も早くあたしたちを消してしまいたかった。だから、いっそ自分で手を下すことにしたわけ。自分のもう一つの姿――殺し屋、黒衣天狗としてね」 「でも、その目論見は新人クンの健闘によって失敗したわけだ。さぞや悔しかっただろうね」  織江が愉快そうに笑う。どちらかというと、織江があの時駆けつけてきてくれた功績のほうが大きいと思うが。 「佐渡さんは本格的に追い詰められた。ナイツから一度マークされてしまえば、もう逃げ切ることは不可能。なんとか生き延びる方法はないか――考えて考えて、逆転の発想に至った。それが『捕まる前に自分を殺してしまうこと』だったの。もちろん、本当に死ぬんじゃなくて、そう思わせるだけでいい。ナイツもさすがに死んだ人間を捜そうとはしないからね。そのために佐渡さんは、壮大な自作自演をやったわけ」 「そりゃまた、随分とぶっとんだ発想だなー。普通じゃないね」  織江は苦笑すると、ハンドルをきって角を右へ曲がりながら禊屋へ尋ねた。
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