第四章――天狗との対決

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「でもさー。いったいどういうからくりなんだ? 新人クンはたしかに、店長室の中で黒衣天狗に殺されそうになってる佐渡の顔を見たんだろー?」  織江は既に、EMCで起きた事件のあらましを聞いていた。 「はい。俺もそう思っていました」  だからこそ、あの首のない死体が佐渡のものだということを何の疑問も持たずに信じていたのだ。それこそが、奴の仕掛けたトリックの目的だった。 「ノラは偽りの光景を見せられていたんだよ、織江ちゃん」  禊屋は改めて、冬吾に既に聞かせた推理を話す。 「偽りの光景?」 「そう。ノラが扉の覗き穴から見たのは、黒衣天狗が演出した『殺されたのは佐渡拳である』と思わせるための光景。実際に殺されたのは似たような体格の別人だったの。死体を詳しく調べてみればそのへんはっきりすると思うけど、それをさせないためのトリックでもあったんだろうね」  死体に疑問の余地があって初めて入念に調べることになるわけで、そもそも禊屋が疑わしいところを見出していなければ、死体は早々に処分されておしまいだっただろう。  そして、黒衣天狗はそのために冬吾を殺すことができなかったのだ。このトリックの成立には、『殺されたのは佐渡拳である』と証言してくれる人間が必要不可欠である。元々は、佐渡はその役目に安土啓恵を選んだのだろう。目撃者は一人で充分、それ以上は計画の支障になりかねない。そのためにわざわざ店を休業にして、啓恵に掃除のアルバイトを任せたわけだ。ところが、佐渡の予想に反して冬吾がその役割を演じてしまう結果となった。だから黒衣天狗は、冬吾を殺せる状況であってもただ逃げることだけを選んだ。万が一にも、自分が死んだことを証言してくれる者を殺してしまうわけにはいかないから。
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