エピローグ――いつか来るその日まで

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エピローグ――いつか来るその日まで

 黒衣天狗にまつわる事件から一週間後、十一月二日。禊屋こと志野美夜子は、夕桜市が経営する図書館に来ていた。美夜子は席に付属されているパソコンで、地方紙の過去記事のデータを閲覧していた。 「…………やっぱりない、か」  ページを閉じて、パソコンの電源を落とす。美夜子が調べていたのは、今から九年前に起きた誘拐事件についてだった。幼少の冬吾が被害に遭ったという、あの事件のことだ。武装集団による警察関係者の子ども誘拐事件なんて、かなりの大事であるように思う。ふと気になって、当時どのような扱いになっていたのかを調べてみたのだが、予想外の結果が出てきてしまった。  具体的な日付は聞いていないので、九年前で今頃の時期だったという冬吾の言葉をヒントに該当する時期の記事を調べた。するとどうにも、その時期、この夕桜市内では誘拐事件など起こっていないらしいのだ。もちろん、被害者が警察関係者で、誘拐というデリケートな扱いを要する事件であることから、報道規制が敷かれた可能性はある。しかしそれにしても、そのような物騒な事件が起きたという気配すら感じられない。あるいは昔のことすぎて、冬吾が年数を間違えたかとも思ったが、年齢の部分に関して彼ははっきりとした記憶があるようだったので、その可能性は薄いだろう。  まさか、全部が作り話だった……? 美夜子はすぐにその考えの馬鹿馬鹿しさに気がついて、首を振った。彼に限って、そんなことがあるはずがない。そもそも、そんな作り話をして彼に何の得がある?  美夜子が図書館から出ると、狙いすましたように携帯に着信があった。彼からだ。
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