第一章――捜索依頼

4/49
246人が本棚に入れています
本棚に追加
/220ページ
「あの、どこかで会ったことありましたっけ?」 「ふふ、直接お会いしたことはありません。これが初めましてですよ」  女性は口元に手を当て上品に笑いつつ答える。彼女の佇まいにはどこか気品があって、その服装と併せるとまるで中世貴族のお嬢様のようにも見えた。 「そういえば、今日が初仕事でしたね。健闘を祈っております」 「はぁ……ありがとうございます」  困惑しつつも、冬吾は礼を言う。今日が初仕事――たしかにそうだが、なぜそんなことまで知っているのだろう。 「それで、あなたは――」  誰なんです? と続けようとしたところで、エレベーターの扉が開いた。一階分上昇しただけなのですぐだった。 「わたくしは、岸上薔薇乃(きしがみばらの)と申します」 「えっ……岸上?」  その名前はたしか……。 「扉が閉まってしまいますよ?」 「あっ――」  慌てて冬吾はエレベーターの外に出る。 「いでっ!?」  閉まりかけの扉に肩を思いきりぶつけてしまった。 「あらあら、そんなに慌てなくても」  そそっかしさを令嬢に笑われてしまう。恥ずかしい……。  扉の閉まっていく向こうで、薔薇乃は上品に手を振りながら言った。 「では、美夜子(みやこ)によろしくお伝え下さい」  扉が閉まって、昇っていくエレベーターの前で冬吾はしばらく立ち尽くしていた。
/220ページ

最初のコメントを投稿しよう!