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「そうか……今の人が」
正直、今まで自分が勝手に抱いていたイメージと違いすぎてすぐにはピンと来なかった。人間、見かけによらないということか。
一階の廊下には左右に小部屋がいくつも並んでいた。冬吾はその中の一室の前に立って、扉をノックする。
「入れ」
ぶっきらぼうな声が返ってきた。扉を開けて中へと入る。部屋は無機質な灰色の壁に囲まれた六畳ほどの空間で、中心に白いテーブルと椅子が置かれているだけだった。まるで警察の取調室のようだ。
テーブルの奥側でスーツ姿の男が椅子に座っていた。年齢は二十半ばほど、オールバックにした髪の下の気難しそうな顔には、スクウェア型の眼鏡がかかっている。乃神朔也(のがみさくや)、二週間前に監査室室長という役職を死んだ上司から引き継いだ男だった。
「禊屋(みそぎや)はまだ来てないのか」
冬吾は乃神へ尋ねる。乃神は右手を動かし部屋全体を示すようにして、
「見ての通りだ」
「そうか」と頷いて、冬吾は乃神の向かいに用意されたパイプ椅子に腰掛ける。
「――ひとつ、言っておくがな」
乃神は両腕を組んで冬吾を睨む。
「禊屋には借りがある。だからわがままに付き合ってやってはいる……が、俺は今でも、お前のような奴がナイツに入ることを認めるつもりはない。役に立たないと判断したら、即刻捨てる。そのつもりでいろ」
「……わかってるよ」
「お前のような雑魚の代わりなどいくらでもいる。それを忘れないことだ」
「わ、わかってるって言ってるだろ……」
前に会った時もそうだったが、こいつ、いちいち嫌味な言い方をしないと気が済まないのか? 性根が曲がっている。
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