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自分だって、この場に相応しい人間だとは思っていない。少し前まではこんなことになるとは考えもしていなかったのだ。
だが、冬吾にはこのナイツグループに身を置かなければならない理由がある。
事の始まりは、二週間前。冬吾はある殺人事件に巻き込まれた。それは、ナイツと伏王会という対立しあう二つの犯罪組織にまつわる事件だった。冬吾はただの学生であるにも関わらず、策略に嵌められ殺人の下手人に仕立てあげられたのである。
ナイツの幹部を殺害したとして捕らえられ、危うく処刑されそうになっていた冬吾を救ってくれたのが、禊屋と名乗る少女だった。禊屋は、ナイツの身内で起きた問題を解決することを生業とする顧問探偵……らしい。
その後も奇怪な成り行きで、冬吾はナイツに身を置き、禊屋と組んで仕事をすることになった。今日はその初日である。
背後で足音がした。ノックもなしに扉が開けられる……噂をすれば影。
「おっ、もう来てた。おっ待たせー」
入ってきたのは、見た目高校生くらいの垢抜けた少女だ。緩くウェーブのかかった、高純度のルビーを溶かしたようなロングの赤い髪が目立つ少女。彼女が禊屋だ。
黒ブラウスにデニムのショートパンツ、上着にくすんだカーキ色のモッズコートという出で立ちで現れた禊屋は、冬吾の隣に置かれた椅子に座る。
「んふふ、初仕事だねぇ。きんちょーしてるー? ねぇねぇ」
冬吾を手で小突きながら禊屋が言う。
「別に……緊張なんてしてないけど」
「ほんとーかなー?」
もちろん嘘だ。不安で少々吐き気さえある。
「なーんか、顔が青い気がするんだケド?」
「……気のせいだよ」
「まー大丈夫だって。今日のはそんなに危ないやつじゃないし。でしょ、乃神さん?」
乃神は今回の仕事の仲介人だった。乃神は眼鏡のブリッジを指の背で持ち上げてから言う。
「今のところ危険な要素は見受けられないな」
「で? なにをすればいいの?」
いよいよ本題に入るようだ。乃神は少し間を置いてから答えた。
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