第一章――捜索依頼

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「行方不明になった女を捜してもらいたい」 「その女の人っていうのは?」 「名は涼城花凛(すずしろかりん)という。年齢は二十四歳」  乃神は手元に置いてあった資料の中から、一枚の写真を取り出して禊屋に渡す。  そこには、黒いドレス姿の女性が薄暗いバーラウンジのような場所を背景に立っていた。細面の美女で、意志の強そうな眼の持ち主だった。いかにも「男を弄ぶことに悦びを見出しています」というような妖艶な笑みを浮かべている……というのは、少々偏った見方だろうか。ドレスはボディラインのはっきり出るタイプで、その表情も相まって男を挑発する艶かしさに満ちている。 「朱ヶ崎(あけがさき)に、イースタン・ミストレス・クラブ……通称EMCという性風俗店がある。いわゆるソープだな。ナイツが出資している、一部のVIPのみが利用できる会員制の高級店だ。涼城はその店の人気ナンバーワンの女だったんだが、三日前の二十日に、突然店を辞めた。そして今日になって、店を辞めて以後行方をくらましているということが判明した。連絡も取れない状況だ」  なるほど、この色気ならば店でナンバーワンというのも納得がいく気がする。  ちなみに朱ヶ崎というのは夕桜市の東側にある港町で、関東でも有数の歓楽街だ。夕桜市内では最も子どもを近づけたくない地域に違いない。 「ふーん……連絡が取れない、っていうのは?」 「今日になってから、居場所を探るため電気会社を装って携帯の番号へかけてみたが、繋がらない。圏外にいるか、電源を切っているかのどちらかだ」 「この人、どこに住んでるかはわかってるわけ?」  禊屋は髪の毛先を手で弄りながら問う。 「朱ヶ崎のマンションだが、こちらも三日前から帰った形跡がない。中まで入って調べたわけではないが、集合ポストに郵便物が貯まっていたそうだ。電話が繋がらないことと合わせて考えてみると、失踪したと見るのが妥当だろう」 「仕事に嫌気が差して、実家に帰ったとかじゃないの?」
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