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第四章――天狗との対決
それからしばらく後、日の暮れかかってきた頃。冬吾と禊屋は朱ヶ崎を走るバンの中にいた。EMCから夕桜支社への帰途だ。二人は後部座席に座っており、運転しているのは、薔薇乃から送迎係を任ぜられてこちらへ来ていた織江だった。冬吾は運転席の後ろの席に座っていて、禊屋はその左隣で電話をしていた。
「――はーい、りょーかい。じゃーね」
禊屋が電話を切るのを待って、冬吾は尋ねた。
「なんだって?」
「念のために頼んでおいた鑑定の報告。結果は黒。死体の血液と胃の残留物から睡眠薬の反応が出たってさ」
「じゃあ、あの死体が佐渡のものじゃないってことは確定か」
禊屋の推理が当たっていたことの裏付けが取れたのだ。
「いやーでも驚いたな」
運転席の織江がバックミラーを見ながら言う。
「あの天狗野郎の正体が佐渡だったとはね」
「よく思いだしてみれば、昨夜のことからして佐渡さんは疑わしかったんだよ」
禊屋は携帯をコートのポケットへ仕舞ってから話す。
「黒衣天狗は涼城花凛殺しの事件を調査する者を殺そうとした。そういう前提で考えてみると、昨夜のあれは犯人側のリアクションとしてはやや過剰すぎる気がしたんだよね。だってそうじゃない? あたしたちが実際に犯人の正体に辿り着けるかどうかなんて、あの時点ではわからなかったはず。それなのに、黒衣天狗はあたしたちが調査に乗り出したその日の夜に襲いかかってきた。犯人は用心深い性格だとは思うけど……それにしたって、ちょっとやりすぎだと感じるかな。まるで、あたしが事件をほじくったらたちまち解決してしまうと――まぁ実際そうなんだけどさ?――犯人までそう思い込んでるみたいな性急さだった。でも、犯人が焦ったのは当然だったんだよね。あたしたちが犯人の正体に繋がる手がかりを見つけたということを知ったんだから」
冬吾は思い当たることがあった。
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