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その日、私は教室の扉の前にいた。
扉の奥には裕也がいる。
裕也とは四年間付き合った仲だった。
最初は弟の友達のお兄さんで、たまに会うだけの人だった。
たまたま同い年で同じ高校に入ってからは、何となく私の方から話しかけることが多くなって、気が付いたらよく話す仲になっていた。
二年生になってからは文化祭や体育祭のときも一緒に協力して楽しんだ。
私が告白したのはそんな輝いていた中でのことだった。
それからずっと付き合ってきて、先月――振られた。
「春香の俺を見ている目が、なんだか俺を見ていないみたいに感じることがあって、苦しい」
彼が私に言った別れの言葉はそんな内容だった。
私にはその意味が理解できなかった。
明日は卒業式。
最後にもう一度話をしたい。
この扉を開けば裕也がいる。
もう一度会って顔を見たい、話がしたい。
また付き合いたいのかもしれないし、ただ納得したいだけなのかもしれない。
この自分の気持ちは自分でもよくわからない。
でも、このまま何もしないままに離れてしまうことが耐え難いことなのは確かだった。
私は意を決して教室の扉を開いた。
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