扉の先で

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 その先生の後ろで私の通う高校の、男子の制服を着て呆れたような顔をした高二サイズの颯太がこちらを見ていた。 その仕草は完全に裕也と同じだったが、違和感は無く颯太としても見られるものだった。  ねぇ、あなたは一体どっちなの?  私の抱いた疑問はそのまま宙ぶらりんなまま時間は過ぎていった。  やがて授業が終わり、颯太の顔をした裕也が私に話し掛けてきた。 「春香、テストが終わったら映画見に行こう」 「へぇ、なんて映画?」  私の口が勝手に喋る。 「アリス・イン・ワンダーランド」 「あ、知ってるそれ! ジョニー・デップが出てるんだよね。 行きたい行きたい!」  私はこの会話を知っている。 去年に裕也と一緒に見に行ったんだ。  それで白の女王がラルクのハイドに似ているとか言って、後で変なところで盛り上がったのを覚えている。 「前田さん、冷水先生が勉強会の話があるから職員室に来いってさ」  教室の入り口から学級委員の螺山(ネジヤマ)君が私に告げた。 私の口はそれに自動的に返事を返して、体は勝手に座席を立った。 そして流れるように扉に向かい、取っ手に手を掛けた。
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