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扉の前で、不意に私は体の自由が利くことに気が付いた。
私は今、振り向いて自分の席に戻ることも出来るし、扉を開けて教室を出て行くことも出来る。
そう思うと取っ手に掛けた手が震えた。
どうしよう……。
焦りにも似た感情が私を包み込む。
しかしそれと同時に扉の向こうへ行かなければならないと、自身の本能が強く主張していることに気が付いた。
ここに留まれば何かが変わるかもしれない。
しかし、それによって自分の過去を否定することにもなる。
根拠は何一つ無いけれど、そう確信した。
私は振り向きたい衝動を理性で抑え付けながら扉を開いた。
― ― ― ―
扉を潜るとまたしても意識がグラッと揺れた。
「大丈夫?」
対面の席に座っていた裕也が私の顔を覗き込んでそう言った。
顔は……やっぱり颯太の顔だった。
「うん、大丈夫」
今度は自分の意思でそう答えることが出来た。
「そう、今日はもう帰る?
春香、最近疲れてるみたいだよ?」
思い出した。
ここは私のお気に入りの喫茶店だ。
BGMが落ち着いていて、人の出入りも少なくてすごく雰囲気の好いお店なんだ。
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