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さっきまで掴まれていた箇所の痺れといい、
今引っ掻いた爪の先の感触といい、
夢や幻にしては生々しすぎる。
さすがに痛かったのか、
私の顎を解放して手の甲を押さえながらも、
変わらずこちらを睨んでくる切れ長の瞳。
「――いい度胸だ。」
春日局、迫力ありすぎ。
その目に捕らえられただけで背中が凍り付く。
「来い。」
今度は右手首をつかまれ、
無理矢理に立たされたと思ったらぐんぐんどこかへ歩を進めていく。
牢を出て、窓のない暗い廊下を連行される。
どこへ連れて行かれるんだろう。
拷問部屋か何かだろうか。
春日局がいるということは、ここはきっと江戸城内のどこか。
足元にちらつく豪華な打掛の裾を、
踏まないようにその隣を歩く。
おそらくはこの人、けっこう早歩きしてると思うんだけど、
裾が床に摩れて邪魔なのか、私がふつうに歩く速度とそんなに変わらない。
そんなことを思ってると、いつのまにか薄明りの届く縁側へとたどり着いた。
どうやら今は明け方のようで、
あたりには朝靄のようなものが立ち込めて景色がぼんやりしていた。
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