葵の章

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みらい?へいせい? と春日局様の脳内にはクエスチョンがいくつも浮かんだことだろう。 私こそ、未来からきたくせに この時代のこと全然分からないんだけどね。 「あの、ごめんなさい。  違う時代から飛ばされてきてしまったって事です」 なんか、なに言ってるんだろう私。 自分で説明して、この状況がいかに現実味のないものなのかって痛感した。 「……はあ、それゆえ、髪の色も身なりも…」 そうだ、なによりも私のこの恰好が、 この時代のものとは異形なんだから、 全部説明すれば理解してもらえるかも知れない。 「私の時代では、髪の色を染める…薬剤や技術があって…、  このようふ…、着物も、この時代のものが、  私たちの時代の生活に合うように軽装化されていって、」 なんて、たどたどしくも、伝わりやすそうな言葉を選びながら説明していると。 「葵殿、私が聞きたいのは貴女の住まう場所の文化などではない。」 ぴしゃっと一言、私の弁明は切り捨てられる。 「貴女が上様の居城であるこの江戸城に侵入してきた理由、  どんな企てがあるのか、それをお答え頂きたい。」 なんか…… 言葉遣いこそ丁寧だけど、 その瞳の奥からびりびりと伝わってくる。 『正直に答えないと殺すよ?』 って意思が。
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