311人が本棚に入れています
本棚に追加
2018年、東京。
文京区 春日通りを過ぎゆく車を眺めながら、
2杯目のブレンドコーヒーを飲みおえ、
カップをソーサーに戻す。
この近くに勤めている友人と、
14:00に退勤できるからと
待ち合わせの予定だったのに。
10分前にこのカフェに着いて
2杯のコーヒーを飲むほどの時間が経っても、
友人からの連絡はない。
そろそろこっちから一報入れてみようかと、
トートバッグの中へ目線を落とすと、
スマートフォンの通知ライトがちかちかと光っていた。
『ごめん!
帰ろうとしたとこで雑用頼まれて、
その先で上司につかまって……』
彼女の早口の謝罪を聞きながら会計を済ませ、
カフェを出ると、
車通りのせいでいっきに電話の声が聞き取りづらくなる。
『葵(あおい)、今どこ?』
居場所を伝えようにも、
特徴のないビルばかりで戸惑う。
「えーと……」
『そこから、T大の校舎見える?』
背の低めのビルの向こう側に、
それらしき建物が見えることを告げると。
『じゃ、そっちに向かって歩いて!
私も今向かってるから。
いったん切るね』
最初のコメントを投稿しよう!