葵の章

2/250
311人が本棚に入れています
本棚に追加
/250ページ
2018年、東京。 文京区 春日通りを過ぎゆく車を眺めながら、 2杯目のブレンドコーヒーを飲みおえ、 カップをソーサーに戻す。 この近くに勤めている友人と、 14:00に退勤できるからと 待ち合わせの予定だったのに。 10分前にこのカフェに着いて 2杯のコーヒーを飲むほどの時間が経っても、 友人からの連絡はない。 そろそろこっちから一報入れてみようかと、 トートバッグの中へ目線を落とすと、 スマートフォンの通知ライトがちかちかと光っていた。 『ごめん!  帰ろうとしたとこで雑用頼まれて、  その先で上司につかまって……』 彼女の早口の謝罪を聞きながら会計を済ませ、 カフェを出ると、 車通りのせいでいっきに電話の声が聞き取りづらくなる。 『葵(あおい)、今どこ?』 居場所を伝えようにも、 特徴のないビルばかりで戸惑う。 「えーと……」 『そこから、T大の校舎見える?』 背の低めのビルの向こう側に、 それらしき建物が見えることを告げると。 『じゃ、そっちに向かって歩いて!  私も今向かってるから。  いったん切るね』
/250ページ

最初のコメントを投稿しよう!