葵の章

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――――どうか、わたくしの煩悩を。 急に強く吹き荒れる風。 それに揺らされる辺りの木々が、 うるさいくらいの葉鳴りを響かす。 「…っ、い、や」 ぐぐっ、となにか強大な引力によって、 私の身体は向いていないはずの方向へと引き寄せられる。 ほんの一瞬前まで、 私のこの先の人生なんだろうって、 このまま老いて死ぬのかなんて、 とんでもなく平和なこと考えてたけど。 まさか、いま、こんなところで。 私は一生を終えるの? 24年間生きてきて、死を予期した瞬間なんて、 このときまで一度もなかった。 ――――鎮めて欲しい、どうか。 最後に、より鮮明に聴こえたその声は、 墓石の穴から聞こえていたようだった。 漆黒色のその穴を中心に、私の視界は歪んでいく。 なにこれ、春日局の呪い? 私があなたに何をしたの? あまりに理不尽な絶望に包まれながら、 私の身体は意識とともに、 漆黒の闇に飲み込まれた。
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