葵の章

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*    *    *    *    * 瞼が開いて自分がまだ生きているということを実感したのは、 格子の窓から薄日がさす、薄暗い牢のような場所だった。 生暖かい、ひとの吐息みたいな空気が鎖骨のあたりを撫でる。 視界がはっきりすると、 私の目の前には、 人の頭らしきもの――― の上に、髷(まげ)のような黒い塊が乗っている。 「え、なに…っ!?」 両手でそれを押しのけると、 袴姿の見知らぬ男性が、驚いた様子で私の顔を見る。 年齢はたぶん私とほぼ変わらない。 「騒ぐでない!  事はすぐ済む」 そう言って再び私の身体に覆い被さる男の目には、 はっきりとした、雄の情欲。 ―――犯される。 ここがどことか、この人が誰なのかとか、 何もわからない中、それだけが私の中で確信となる。 「……嫌――――っ!!」 ありったけの声量を振り絞って、 自分の喉が出せる最高のトーンを意識して、 私は叫んだ。 「だれか、助けて下さい!!  助けて…っ!!」 男の舌打ちが聞こえて、 私の口は顎もろとも強い力に掴まれる。
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