葵の章

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唇に無駄な力を一切入れずに重なってくる口づけは、 その柔らかさで私を虜にする。 数度、ゆっくりと下唇を食まれれば、 つい今までどうやって呼吸をしていたのかも、 分からなくされてしまう。 「――ん、」 そうして息苦しさを覚えて、 やがて私が上下の唇を結ぶと、 『許さない』――そう伝えるかのように、 春日様の舌の感触がその結び目を割って入ってくる。 訳のわからない提案の挙げ句、 強引に奪われて蹂躙されているはずなのに、 与えられる感触はどこまでも柔らかで、 脳が錯覚を起こし始める。 これは教育ではなく、愛でられているのだと。 「……また、甘さを帯びてきました」 僅かに離れた唇がそれだけ告げて、 すぐに再び重なってくる。 春日様は昨夜、 キスの最中に頬を撫でたとたん、 私の舌が甘くなったと言った。 確かにあのとき、 春日様の言葉に胸が跳ねて、 『いい子』みたいな手つきと眼差しに、 不覚にもときめいたことは頷かざるをえない。
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